広報あつぎ 平成18年11月1日 第1002号
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トピックス

大自然に囲まれて野生鳥獣たちと、共に生きる


 大山をはじめ、市北西部に広がる丹沢の大自然。約4万haの山々には、サルやシカ、オオタカなど多くの野生鳥獣が暮らしています。近年、環境の変化により、生活の場を失いつつある鳥獣たち。今回の特集では、生態系の管理や傷病鳥獣の保護、農作物の被害対策など、さまざまな角度から人と野生鳥獣との共生の在り方を考えます。


大自然に異変
 丹沢にある貴重な大自然。近年、この生態系が大きく崩れています。正常な生態系は本来、食物連鎖など生物間のバランスが取れた状態で成立しています。そこに新たな生物が入り込むと、在来種の絶滅などの危険が生じます。丹沢では現在、シカの過密化による環境の変化やアライグマの増殖などが問題視されています。

シカの影響力
 特定の草や木の実などを食べるシカは、丹沢の生態系に大きな影響を与えています。県では、丹沢に生息するシカの数を2,400から4,200の範囲と推計。本来の生息域は草原など平野部ですが、人間生活の影響で山岳地帯まで範囲を広げています。
 山岳地帯では、シカが好んで食べるスズタケ(ササ類)が激減。森の乾燥化を招いてブナ林を衰弱させるなど、生態系のバランスを崩しています。平野部では農業に被害を与えるとともに、ヤマビルを寄生させて移動するため、その生息域を広げて人への被害を引き起こしています。この状況を受けて県では、シカを「特定鳥獣」に位置付け、エリアごとの管理捕獲を実施して個体数を調整しています。

生態系のバランサー
 「数年前と比べ、たくさんの野生鳥獣を人家の近くで見掛けます。生態系が変化しているのでしょう」。県猟友会厚木支部の安藤忠幸さん(戸室在住)はこう証言します。
 生態系の正常化に向けた一翼を担うのが狩猟です。猟友会は市や県、農協と連携し、農業などに有害な鳥獣の駆除やシカの管理捕獲、サルの追い払いなどを担う公益法人です。
 市内で1年間に捕獲されるシカは約50匹、アライグマやドバトなどの有害鳥獣は約540匹。サルの追い払いは約100件に上ります。メンバーの佐藤8須男さん(62・上荻野在住)は、「農家の現状を見ると、任務の重さを実感します。サルは殺すことなどが制限されていますが、最近は被害が多く、捕獲の必要性を感じています」と話します。
 野生鳥獣とのあつれき緩和や生態系保全に貢献する猟友会。狩猟を通じた生態系の管理には、野生鳥獣との共生に向けた多くの効果が期待されています。


県猟友会厚木支部事務局長
安藤忠幸さん

 野生鳥獣による農作物被害は、深刻な状況です。しかし、鳥獣たちこそ人間の被害者と言えるかもしれません。山の開発を抑えたり荒れた山を整備したりして、鳥獣たちの餌を山に確保してあげれば、人里での被害は減るでしょう。里山をよみがえらせるなど、鳥獣が暮らす山と人里との境界をはっきりさせることも大切です。
 わたしたちが会としてできることは、有害であったり増え過ぎたりした鳥獣を捕獲すること。狩猟が、自然界のバランス維持の1助になればと考えています。



室内には所狭しとケージが立ち並ぶ
↑足を負傷したタヌキを治療する加藤さん(右)
→疥癬症を患っているタヌキ
ボランティアの丸山さん(右)。餌やりや清掃に汗を流す
年間600匹を保護
 昨年度、県内で保護された野生鳥獣は1,870匹。このうち同センターに運び込まれたのは、県全体の約3分の1に当たる607匹でした。約8割がオオタカやツバメ、トビなどの鳥類ですが、タヌキやキツネなどのほ乳類も128匹を保護し、県全体の約6割を占めています。
 同センターによると、交通事故や建物への衝突、わな被害のほか、タヌキの疥癬症(ダニが寄生して体毛がなくなる病気)などが主な原因として挙げられるそうです。

自然復帰は3割
 「ここに運ばれる鳥獣は、ひん死の状態がほとんど。約6割は死んでしまい、無事に自然復帰できるのは3割ほどです。残りは1命を取り留めるものの、自然には返れません」。同センター獣医師の加藤千晴さん(水引在住)は、厳しい現状を話します。常時活動するスタッフは、加藤さんを含めて2、3人。「人数は何人いてもいいくらいで、優れた機材があるわけでもありません。手いっぱいの状態です」と、日々の活動に追われています。

ボランティアが活躍
 厳しい保護状況を補助するのが、「傷病鳥獣保護ボランティア」です。現在、約180人が登録。日々、数人が施設に通い、清掃や餌やり、治療の補助などをしています。保護原因などのデータ分析や学校や地域での環境教育も行っています。

タヌキを自然へ
 9月中旬、伊勢原との市境で疥癬症から回復したタヌキが自然に返されました。「人に保護されたタヌキが、野生に戻れた時はほっとします」と話すのは、東京農業大学厚木キャンパスで野生動物学を学ぶ林亜希子さん(21)と難波海南子さん(22)。これまでに4匹を自然に返したというボランティアの2人は、タヌキに発信機を装着し生息状況を調査しています。

変革した意識
 「この活動が、自然に対して大きく影響するとは思っていません。それでも、わたしたち人間のわがままに苦しむ動物たちの力に少しでもなりたかった」と、5か月ほど前からボランティアに参加しているのは丸山恵子さん(29・鳶尾在住)。イラストレーターの丸山さんは週1回、ケージ(おり)の清掃や餌やりなどをしています。活動を通じ、生活の中で野生鳥獣を意識するようになるなど、世界観が大きく広がったそうです。丸山さんは「野生鳥獣とのより良い関係を築くためには、自然には鳥獣が暮らしていると意識することが重要。ここでの経験を周囲に伝えるなど、野生鳥獣への理解を広める取り組みをしていきたい」と、鳥獣たちの世話に汗を流します。

野生鳥獣に関心を
 「野生鳥獣を護りたい」-。ここには、自然を愛するたくさんの熱意と優しさがあふれています。野生鳥獣たちの存在を絶えず意識して生活することは、豊かな自然を守っていくための第1歩です。
タヌキを自然に返す林さん(右)と難波さん


自然環境保全センター獣医師
加藤千晴さん

 運ばれてくる鳥獣たちは、自然界のさまざまな変化を教えてくれます。わたしたちは、彼らを治療して自然に返すとともに、データを収集して生態系保全に役立てています。
 野生鳥獣はわたしたちが気付かないだけで、身近に暮らしていることが少なくありません。彼らを見つけても、餌をあげるなどせず、そっとしておいてあげてください。
 野生鳥獣への理解が広がり、両者が程よい距離を保ちながら共生できる環境が整うといいですね。


こちらに続く


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