広報あつぎ 平成18年11月1日 第1002号
 この号トップへ || 広報あつぎトップへ || 厚木市ホームページへ
トピックス

大自然に囲まれて野生鳥獣たちと、共に生きる
鳥獣被害を防ぐ



イノシシに荒らされた畑
 自然の豊かさは市の魅力である半面、野生鳥獣による農作物被害は、農家にとっては悩みの種です。
 「大切に育てた作物が、食い荒らされてしまう。悔しくて仕方がありません」。七沢で野菜直売所を営む高橋増次さん(66)は、鳥獣による被害に困惑を隠せません。付近ではシカやサル、イノシシ、ハクビシンなどによる被害が続発。対策として設置された電気柵や天井部まで金網で覆われた柵が、被害の深刻さを物語ります。「作物の全滅は珍しくなく、墓前に供えた花まで食べられてしまうような状況。どうしていいのか分からない」とため息をつきます。

被害量は県全体の1割
 県が集計した昨年度の「野生鳥獣による農作物被害調査」によると、市内の被害量は県全体の約1割(約162トン)。玉川、荻野、小鮎地区で多く、面積は約36haに上ります。農協の音頭で地元住民たちがサルを追い払ったり、猟友会が有害鳥獣を駆除したりしていますが、被害の解消には至っていません。

排除から共生へ
 農作物被害が、最も目立っているのが七沢をはじめとする玉川地区。農業従事者の高齢化なども相まって、農地の耕作放棄が進んでいます。
 この状況を打破しようと立ち上がったのが、地元の住民たち。従来の「被害を与える鳥獣は排除する」という発想を転換し、鳥獣に食べられない農作物を実証栽培し特産品にしていく取り組みを始めました。中山間地農業の振興や、農業と観光との融合を掲げる地域再生計画「七沢ふるさと食文化村構想」の1環として、同推進委員会(井1信義委員長)のメンバー39人が参加。地元の料理店や商店などの経営者、とび職人など、ほとんどが農業未経験者です。昨年から3年にわたって、遊休農地で農作物の栽培を進め、鳥獣による被害の状況や収益性などを検証しています。

鳥獣が好まない作物を実証栽培
 栽培作物は、東京農業大学農学部の三浦周行教授らのアドバイスを基に「鳥獣が好まない」と選定された11品目。昨年は、エンサイやムカゴ(山イモ)など7品目を栽培し、被害はありませんでした。「地域住民の熱意に応えたい」と技術指導を引き受けたJAあつぎグリーンセンター技術顧問の内野邦夫さん(72)は、「素人同然のメンバーが、試行錯誤しながら頑張っています。一部の作物が病気で枯れるなどの失敗はありましたが、エンサイなどが収穫でき、一定の成果がありました」と1年目を総括します。

立ち上がった議員たち
多くの議員が参加した設立総会
 鳥獣による被害に頭を悩ますのは、丹沢周辺の相模原・秦野・伊勢原の各市や、愛川町、清川村も同じ。この問題を広域的に考えていこうと、各市町村の議員で構成する「大山丹沢山系鳥獣等問題市町村議員連絡協議会」(和田美正会長)が発足しました。会派を超えて108人が参加し、各市町村間の連携を強めています。
 8月16日に市文化会館で行われた設立総会では、和田会長が「わたしの住む厚木市でも有効な対策が見つからず、対応に苦慮している。課題を共有し、問題解決に向けて全力で取り組んでいきたい」と力強くあいさつ。ヤマビルの勉強会も行いました。
 今後は、各議員の持つ情報や問題意識を共有し、対策について関係機関へ働き掛けていきます。



 ことし4月、畑を約2倍(約3000平方m)に広げ、食文化村の2年目がスタートしました。6月までに9品目を定植。昨年、イモが真っすぐ育たなかったムカゴは、形を矯正する筒を使って栽培しました。「実証栽培だから、身近な用具で代用できるかも確認しよう」と、雨どいなども活用。井一委員長は「畑の面積も作物の種類も増やしました。労苦や経費などの負担をを軽くし、地域に還元できる活動を進めたい」と、さらに意気込みます。

収穫、そして出荷
 収穫までの数か月、主な仕事となるのが除草や日照対策などのほ場管理です。除草作業では「こんなにむしるのは初めて」「取ってもすぐに生えてきて大変だ」。メンバーは汗をにじませ、収穫の時を待ちます。
 8月、畑には一面の緑が広がりました。昨年も豊作だったエンサイは、ことしも栽培に成功。地元の介護老人福祉施設「玉川グリーンホーム」からの注文も入りました。

地産地消の動き
旅館の料理に彩りを添えるエンサイ
 エンサイは中国南部などで栽培され、ビタミンAやC、鉄分が豊富な野菜です。同ホームでは昨年から注文。施設長の原田茂さん(73・小野在住)は「地域に協力する意味でも、独自の調理法を考案して各地へ発信していくべき」と力を込めます。管理栄養士の草柳紀子さん(48・長谷在住)は「地元の新鮮な野菜を食べられるのはうれしい。エンサイは栄養価が高くて味にも癖がなく、入所者からも好評です。あまり知られていない野菜ですが、売り方次第で人気が出そうですね」と、期待を寄せます。

旅館でも歓迎
 「地域の取り組みを食の楽しみへとつなげていくのは地元旅館の使命」と強調するのは、七沢で旅館を経営する山本淳一さん(63)。観光客にとって旅先の特色ある料理は、大きな魅力の1つ。「ゆくゆくは地域の名物『しし鍋』にも取り入れたい」と話す山本さんの旅館では、食文化村からエンサイやウドなどを仕入れています。酢の物やてんぷら、おひたしなど調理法はさまざま、彩り豊かな料理が観光客を喜ばせます。山本さんは「七沢らしい特産品を生み出し、集客できるようになれば。これからも連携し、地元を盛り上げていきたい」と、協力を約束します。

祭りでもPR
 「七沢森のまつり」(11月3日、七沢森林公園)でも、活動をアピール。当日は、実証栽培で取れた野菜やコンニャクの加工品などを販売します。井一委員長は「今後は食材の加工施設を造り、団塊の世代も巻き込んで特産品を生み出していきたい。農業や食を楽しむ環境を整備し、地域再生につなげていければ」。実証期限はあと1年とわずか。食文化村の挑戦は、いよいよ佳境へと入ります。



豊作だったエンサイ。特産として期待される
 計画的な山林の保護、環境汚染への対策、人の生活習慣の改善-。自然環境の保全には、越えなくてはならない幾つものハードルがあります。生態系の管理に携わる人たち、野生鳥獣を保護する人たち、鳥獣による農作物被害に立ち向かう人たちは、偶然にも口をそろえます。「身の回りにある自然で、何が起こっているのか。まずはそれを認識してほしい」
 野生鳥獣とのより良い関係を築いて、自然の生態系を後世にわたり守り続けること。その礎は、わたしたち一人一人の意識や行動にあるのかもしれません。

里山で生産された木材を丸太に
棚田に実った稲を丁寧に刈り取るボランティア
 市民の手で、失われつつある里山を復活させる「里山マルチライブプラン」。現在、七沢と荻野で展開しています。
 里山は、人里近くで人の手によって管理された自然豊かな山。雑木林や田畑、小川、民家などと接し、古くからまきや稲、キノコなどの生産に利用されてきました。
 近年、人々の生活様式の変化により里山は荒廃し、そこで生息していた生物の絶滅危機を招いています。また、里山が果たしてきた役割である人と野生鳥獣との生活域の区分けも失われ、鳥獣被害の大きな要因にもなっています。
 プランには30歳代から60歳代まで約30人が参加。地域住民の手ほどきを受け、棚田の修復やまき作りなどに取り組んでいます。
 参加者の動機はさまざま。鈴木裕史さん(37・温水在住)は「市街地の近くにある豊かな自然が厚木の魅力だから」と笑顔。武田量雄さん(62・毛利台在住)は「里山の手入れが行き届いていない現状が心配」と、作業に力が入ります。
 七沢の棚田で稲作を教える佐藤忠男さん(66・七沢在住)は「地道な活動を続け、皆さんと豊かな自然環境を守っていきたい」と里山復活に夢を膨らませます。


東京農業大学農学部教授
三浦周行さん

 鳥獣が食べない野菜は基本的にはありません。実証栽培では、鳥獣に食べられても回復が早く、実質的な被害の少ない11種の野菜を選びました。有名ではありませんが、特産にするにはむしろ好都合でしょう。
 現在、野生鳥獣と人間とのすみ分けは、あいまいになっています。鳥獣の生息環境を整えた上で、中山間部で鳥獣が好まない作物の生産が広がれば、あつれきは減るでしょう。実証栽培から作物の一大生産地ができ、地域産業の振興と野生鳥獣との共生が両立することを期待しています。




このページの一番上へ

編集・発行 厚木市 市政企画部広報課
〒243-8511 神奈川県厚木市中町3丁目17番17号