広報あつぎ 平成21年11月1日 第1074号
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トピックス

サラブレッドに夢を乗せ

週2回の追い切りは迫力満点。
緑の中を疾走するサラブレッドの姿は美しい
サラブレッドの脚元に目を光らす秀男さん(右)。
馬を見つめるその眼光は鋭い

 「牧場を任せてほしい」「おまえに何ができる」。緑に囲まれた上荻野・経ケ岳のふもとに、競走馬の育成牧場がある。40年にわたり牧場を守ってきた高木秀男さん(62)に、千葉県の育成牧場で武者修行を終えた息子・俊介さん(31)が世代交代を迫った。ぶつかり合う親子のプライド。牧場の歴史が今、大きく変わろうとしている。厚木の地でのサラブレッド育成に情熱を傾ける親子と、彼らを取り巻く人々の日々を追った。

調教を終えて引き揚げる馬。背は人の身長より高い
 競馬場を埋め尽くす大観衆、騎手の華麗な手綱さばき、スタンドのどよめき、人馬が一体となったゴール前の激しい競い合い。多くの注目を集め、巨額の資金が動く競馬の世界は、華やかな喧騒に包まれている。
 サラブレッドは、人が速さだけを追い求めて交配し作り上げた生き物。発達した筋肉の「よろい」を身にまとった姿は雄大で、体重は500kg前後に上る。疾走する姿は美しく芸術的だが、大きな体を支える四肢はもろくはかない。

華やかさと無縁の世界

 育成牧場は、人を乗せることを知らないサラブレッドを細心の注意を払って育て、調教師のいるトレーニングセンターへ送り出すことを使命としている。現役馬の休養や調整も大切な役割。レース前の最も手間の掛かる仕事を担う裏方であり、その日常は華やかさとは無縁だ。
 高木競走馬育成牧場は、昭和40年ごろに開設された。秀男さんは2代目で、妻の佐織さん(63)と共に牧場を守ってきた。
現在、持ち馬と預かっている馬を合わせると、15頭から30頭ほどの馬が厩舎を埋め、8人のスタッフが働いている。
 秀男さんには2人の息子がいる。後継ぎの俊介さんは次男、長男の大輔さん(35)は、JRA(日本中央競馬会)の美浦トレーニングセンター(茨城県美浦村)で調教助手をしている。

挑戦の始まり

早朝の厩舎前。馬が寝ていたわらを干す
 「この牧場はこのままでは生き残れない。すべてを僕に任せてください」。ことし4月、千葉県香取市の育成牧場で3年間の修行を終えた俊介さんは、父であり社長でもある秀男さんに頭を下げた。
 「うちの牧場は古い」。俊介さんが強豪馬ひしめく牧場で見たのは、馬に触れる心構えから手入れ、厩舎管理、調教に至るすべてが、マニュアル化された無駄のないシステムだった。俊介さんは3年間、馬作りの先進的な手法を夢中で学んだ。
 「俊介の帰る日は、自分が退く日」。秀男さんの胸の内には覚悟があった。しかし、帰ってきた息子から出た言葉を聞いた瞬間、その成長を喜ぶ気持ちとは裏腹に「何を言っているんだ。人の苦労も知らないで」という感情がわき上がった。
 40年を超える牧場の歴史のほとんどは、秀男さんが築いてきた。右も左も分からずに牧場を引き継いだ秀男さんは、試行錯誤を繰り返しながらここまでやってきた。牧場経営への確かな信念を持ち、人並み以上の苦労をしてきた。「甘く見るな。おまえに何ができる」。胸にたまった感情は、怒声となって牧場内に響いた。

広がる信頼感

調教後、馬の体を丁寧に洗うスタッフ
 スタッフは、生まれ変わる牧場に理解を示した。中学卒業から秀男さんの下で働く松浦尚樹さん(30)は「やり方は変わったが、社長と俊介さんの描く理想は一致していた。互いの長所を合わせただけなので、反発はなかった」。17年目の厩務員・遠藤日通志さん(38)も「最初は戸惑ったが、いい馬を育てるためと思ったら前向きになれた」と振り返る。
 俊介さんが改革に向け、まず着手したのは仕事のマニュアル化だった。事務所の壁に仕事のやり方を書いた紙を張り、スタッフに同レベルの仕事と効率性を求めた。1頭1頭の状態チェックも徹底し、それに基づいた調教メニューを作った。
 コスト管理にも手を入れた。薬品や飼料は、必要数を発注することで期限切れなどの無駄を排除。代わりに、馬の能力を引き出すための馬具を一新した。8月には修行先の同僚・伊藤祐介さん(33)を招き、考えと技術を浸透させた。
 成果は徐々に表れた。馬たちの成績は上向き、調教師からは「状態が良くなった」「馬体管理がうまくなった」と評判は上々。スタッフの意欲は高まり、いつの間にか秀男さんの怒鳴り声もやんだ。
 秀男さんの妻・佐織さんは「俊介は競争原理を取り入れ、スタッフの技術力や集中力を高めた。みんなも変革を受け入れてくれ、チームとしての結束や実力が高まった。お父さんは見掛けはむすっとしていても、本当は喜んでいるんじゃないかな」と夫の心中を察する。

家族あっての仕事

デビュー戦のパドックを巡回するディテール
 馬という生き物を扱う牧場に、気を休める時間はない。馬は暑さに弱く、放牧や調教は早朝に行う。仕事は4時台から始まり、夜の飼い葉(食事)や馬体点検などが終わるのは10時を回ることもある。あこがれだけで務まるものでなければ、家族の理解なしでできる仕事でもない。俊介さんの妻・沙織さん(28)は、夫に転職を勧めたこともあった。「手間の掛かる馬の仕事をされると、家族で過ごせる時間が少ない。給料も労働に見合っていない」ということが理由だ。
 幼い2人の子どもがいる俊介さんは、週1回の休日を家族との外出に充てている。子どもたちに寂しい思いをさせたくない一心からだ。沙織さんは「いつも寝不足だから、休日くらいは寝たいのが本音だと思う。そんな生活でも、彼は馬とかかわる仕事を選んだ。よっぽど馬が好きなんでしょうね。やるからには、ここを立派に守り抜いてほしい」。
 牧場ではことし、3頭の所有馬がデビューを迎える。新体制が送り出す初めての世代だ。9月13日に中山競馬場で行われた2歳新馬戦には、先陣を切って牝馬のディテールが出走した。管理するのは、大輔さんが所属する厩舎。出走前の調整は、大輔さんが手綱を握った。
 14頭立ての6番人気。ディテールの初陣は、追い上げかなわず8着に終わった。スタンドから身を乗り出して声援を送った俊介さんは、「結果は残念だが、まだスタートラインに立ったばかり」と、気持ちを切り替えた。

ゲートは開かれた

1歳馬に角の回り方を教える俊介さん。馴致の作業は、どれもが危険と隣り合わせ。
 森の木々に秋の気配が漂い始めた9月の末。北海道から2頭の1歳馬が、牧場に到着した。人を乗せることを知らないサラブレッドたちにくら、はみ(くつわ)などの感触を伝え、騎乗や走りのいろはを教える馴致の季節が始まった。
 落馬の危険が増し、スタッフの緊張が最も高まるシーズン。馬と格闘する命懸けの毎日だ。「また新しい1年が始まった。買った値段は決して高い馬ではないが、レースで勝てるように育てたい。小さな牧場からの挑戦は、やりがいがあってわくわくする」と俊介さん。レースでの1勝は牧場の評価に直結し、将来の経営を大きく左右する。
 新馬たちを見つめながら、俊介さんが静かに口を開いた。「対立やいさかいはあるが、おやじのことは尊敬しているんです。馬の病気への対処など、学ぶべきことはたくさんある。でも、この牧場にまだまだ伸びる余地があるのも事実。おやじが守り育てた牧場を、もっともっと良くしたいんです」
 「チーム高木」の挑戦の日々は、まだゲートが開いたばかりだ。汗とほこりにまみれた闘いの道は、はるかかなたへと続いている。


競走馬育成牧場の魅力を映像と写真で紹介

■特別番組「夢を乗せて走れ!厚木育ちのサラブレッド」
 11月15日、午後5時30分〜5時45分
 テレビ神奈川(tvk)
 共通の夢を持ち、仕事に情熱を燃やす「チーム高木」のスタッフたち。自然に抱かれた牧場で働く人々の姿を、美しい季節の移ろいとともに紹介します。
◎11月17日から、市ホームページでも動画配信します。

■写真展「サラブレッドを愛する日々」
 10月30日〜11月14日、ヤングコミュニティセンター

■マイタウンクラブ「地域SNS」
 未公開写真などを紹介します。
 「ともだち検索」の「広報課」からご覧ください。

【問合せ】広報課 [電話]225-2040






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