厚木の生き物を調べる

更新日:2021年04月01日

私たちの住む厚木は、大山とその山麓に広がる丘陵地や台地、相模川や中津川とその流域の水田など、いろいろな自然があります。こうした自然に育まれ、多くの草や木、鳥や虫などの生きものが生息しています。資料館では、生息する生きものの種類やその暮らしぶりなどの情報を集め、厚木周辺の自然の様子やその変化などを調べています

1 生き物の戸籍簿を作る

 地域の生きものを調べる第一歩は、どのような種類が生息するかを知ることです。まずは、顔ぶれを確かめようというわけです。神奈川県では生物調査が進み、県単位で分布する種類数はよく分かっています。しかし、もうすこし小さな地域、たとえば市町村単位だと充分に情報がないのが現状です。私たちの住む厚木はどうかと言うと、今までに5千種類以上が記録されており、県内でも比較的高い解明率です。これは、厚木の先人たちによる積み重ねがあった結果と言えます。資料館に明治時代からの市内産の植物標本が保管されていることからも、その努力のほどがうかがえます。
 地域の生きものの顔ぶれが分かってきたら、各種の詳しい分布や暮らしぶりを調べることが大事です。絶滅が心配されているカタクリが、厚木のどこにあって、いつごろ花が咲くのか、生育する環境などを記録すると、その植物をとりまく問題やその解決の道筋が見えてくるのです。このように種類ごとの詳しい情報は、地域の自然を考えるための基礎資料となります。
 ある地域に生息する生きもの個々の情報を記録し活用することは、役所の戸籍の役割に似ています。まさに地域の動植物を調べる作業は、「生きもの戸籍簿」を作ることにたとえられるのです。資料館では、厚木周辺の生きものの種類数を把握するとともに、種類ごとの分布や暮らしぶりを記録した戸籍簿を作っています。この戸籍は一回作ったからといって終わりではありません。いつも調べながら点検し、新しい種類の追加や、消えてしまった種類など、つねに書き加える必要があります。情報を積み重ねてゆくことが大切で、こうした蓄えがあってこそ、いろいろな生きもの事情が詳しく分かるのです。

2 生き物の地図は語る

 戸籍簿から分布の情報を引き出し、メッシュ単位で分布の有無を調べ、種類ごとに「生きもの地図」を作りました。まず、分かることは、厚木のどこに分布するのか、分布範囲が限定されるのか、広いのかといったことです。また、情報の蓄積が充分かを計る目安にもなります。たとえば、県内では普通種のコクワガタですが、厚木では分布が点状になっています。しかし、実際に各所で聞き取りをすると広域に分布しているようです。このようにして、戸籍の内容が不備であることがチェックされるのです。
 さて、分布の広い種類、限定される種類をいくつか見てみましょう。愛好者の多いランの仲間であるエビネは、本市では分布がきわめて限られます。同様な分布をする種類としては、カタクリやカワラノギクなどが挙げられます。一方で、春先に紫色をした小さな花が咲くタチツボスミレは、広い分布を示しています。ハルジョオンやセイタカアワダチソウなども同様な分布をしています。
 では、種類によって分布の様子が違うのはなぜでしょうか。この答えを探るには、生きもの地図といくつかの情報を重ねて考えるのがよい方法です。まず、メッシュの大まかな自然環境から分布の様子を読んでみましょう。エビネは、森林が多くを占めるメッシュで、カワラノギクは河原が広がるメッシュでそれぞれ見つかっています。分布が限定されているのは、限られた自然環境でしか生育できないことの現れのようです。一方、分布が広い種類は、自然環境ではなく、生育環境という情報を加えて考えてみましょう。セイタカアワダチソウは、河川敷や土手、車道の際など、日当たりの良く水気のない乾いた草原や裸地を好んで生育しています。このような他の植物があまり生えない劣悪ともいえる場所は、市内各所で見られ、年々増加する自然環境だといえます。したがって、セイタカアワダチソウの分布の広がりは、生育に適した環境が市内に広がっていることの現れと考えられます。ハルジョオンやヒメジョオンも同様で、こうした植物の多くは外国から持ち込まれて住み着いた帰化植物です。これに対して在来種は分布が限定される傾向にありますが、タチツボスミレやカントウタンポポなどは、今でも広く見られる代表的なものです。

3 地図を詳しく読む

 生きもの地図を作ると、なぜか分布が飛び離れた種類がいます。その多くは、情報不足によるものですが、いくら調べても変わらない種類がいます。たとえば、黒地に黄色い縞模様のあるミヤマサナエは、その代表格です。地図上では大きな川沿いと、飛び離れて丘陵地や山地に記録があります。厚木で記録された最高標高は大山山頂の約1250メートル、最低標高は相模川河原の20メートルで、高低差は1,000メートルをこえます。この分布の謎は、その暮らしぶりを調べると分かります。じつは、幼虫が相模川などの大きな河川で生育すること、羽化後の成虫が丘陵地や山地に移動すること、卵を産む時期になると川に帰ることなど、その暮らしぶりが分布に現れた結果だったのです。
 似た仲間どうしの地図を比べてもおもしろいことが分かります。たとえば、夏の風物詩として有名なホタル類のうち、水中で幼虫が育ち、姿形が似ているゲンジボタル(大型/6月に発生)とヘイケボタル(小型/盛夏に発生)を見てみましょう。すると、明らかにヘイケボタルの方が分布が限定されています。これは、生息環境の情報と組み合わすと理解できます。分布の広いゲンジボタルは、細かい砂のまじった小川に生息し、こうした環境は斜面緑地や丘陵地などの各所で見られます。このことが、広い分布を支えている大きな要因です。一方、ヘイケボタルは水田や湿地などの泥質の水辺で生育し、その分布域は人里近くにあります。したがって、近年の減反や宅地造成などによる影響をうけ、その分布域を狭めているのです。生育する場所が明暗をわけたといってよいでしょう。
 オオムラサキは、「緑のまとまり」の大切さを教えてくれます。本種の分布は、市西部の丘陵地から山麓にかけてですが、成虫の食べ物であるクヌギ・コナラ・タチヤナギ(汁吸植物)は市内の広域に分布します。また、幼虫の食べ物であるエノキ(食樹)の分布も同様な分布を示します。市内各所に食べ物があるのに、食べる側の分布が重なっていません。これは市街地などにまばらに食樹などがあっても、生息はできないことの現れです。まとまった緑は、生きものの生息にとって重要なのです。

 いまも「生きもの戸籍簿」作りは進行中です。さまざまな情報を蓄積することで、厚木周辺の自然のデータバンクとしての機能を充実し、自然共生のまちづくりに役立てたいと思います。

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