伝統を受け継ぐ

更新日:2021年04月01日

厚木に住むひとびとが、大事に受け継いできたものは数多くあります。中でも、人形芝居や神楽などの“芸能”は、くらしを潤すものとして、また共同体のきずなとして大切にされてきました。時代の流れとともに受け継ぐ人が少なくなっている大事なこの伝統芸能は、どこから入ってきたのでしょうか、また他の地域のものとはどう違うのでしょうか。

1 模人形芝居

厚木市周辺の人形芝居分布地が記載されている画像

厚木市周辺の人形芝居分布地

 相模人形芝居は、神奈川県を代表する民俗芸能の一つ。神奈川県には、江戸時代から明治にかけて15ケ所に人形芝居があったといわれています。このうち6ケ所が厚木市内にありましたが、睦合地区の林座、南毛利地区の長谷座の二座は現在も活動を続けており、昭和55年 1月、小田原市の下中座とともに国の重要無形民俗文化財に指定されました。

十次郎と初菊が写っている写真

十次郎と初菊

 展示されている「十次郎」と「初菊」は、いずれも林座、長谷座が得意とする「絵本太功記」尼ケ崎段の登場人物。場面は「出陣の場」で、主君を殺害してしまった武智光秀(明智)の子が十次郎。彼は、真柴久吉(羽柴秀吉)との合戦にうら若い身をもって出陣しなければなりません。初陣となるその門出に、許嫁の初菊と名残を惜しんでいるのが、この場面です。

人形芝居の演目には、封建体制下、不条理なまでに忠義を通そうとする中での、親子、夫婦の愛情が胸をうつ作品が数多くあります。出陣の場も典型的なこのタイプの一つといえます。

堰神社(長谷)に伝わる三番叟の面が写っている写真

堰神社(長谷)に伝わる三番叟の面

 林座、長谷座は、江戸中期頃にはじまったとされていますが、堰神社に保存される三番叟の面は「淡路から伝わった」という人形の出自を物語っています。その後、大阪の吉田朝右衛門、江戸の西川伊三郎などが人形遣いの師匠としてムラの人を指導してきました。

三人遣いの仕組み(林美禰美子氏作図)が記載されている画像

三人遣いの仕組み(林美禰美子氏作図)

 相模人形芝居は、義太夫節に合せて一つの人形を主遣(カシラと右手)、左遣(左手)、足遣が操作します。この方法は、大阪の文楽と同様ですが、カシラは文楽のものよりもやや小ぶりです。また「鉄砲差し」とよばれるように猟師が鉄砲を構えるような格好で人形を操ります。

人形芝居には、一人遣い(石川県東二口や佐渡の文弥人形等)、二人遣い(白久の棒遣い人形等)によるものもあります。また、近隣の八王子のように「弓手」を遣うことで一人で人形の左手を操作する車人形もあります。文楽、相模人形芝居のような三人遣いの人形は、文学性、芸術性を高めた戯曲に対応し、人情の機微が表現できるような工夫がされており、人形芝居の中でも「世界に誇る」ものといわれています。

2 太夫節民 芸能をささえる人たち

竹沢弥造さんが、三味線を奏でる写真

熱演する竹沢弥造

 義太夫の太夫、三味線弾きは、人形芝居、地芝居のいずれを行うにせよ欠かせません。展示されている「見台」は、厚木の義太夫語り・竹本盛太夫さんのもの、そして「義太夫本」は竹沢弥造さんのものです。

盛太夫さんは、この世界に入った22歳のときから60年間にわたって歌舞伎の義太夫を語ってきましたがこの見台は、盛太夫さんが旅興行にも持っていったものだといいます。かつて、厚木には市川柿之助や三升源五郎といった地芝居の名優がいましたが、盛太夫さんは、その一座と組み、全国で東京歌舞伎としての旅興行を行っていました。また、明治座をはじめとする大劇場、上海など海外の公演にも出演しました。

人形芝居や地芝居は、盛太夫さんのような方々にささえられてきましたが、厚木の地芝居は残念ながらすでに絶えてしまっています。現在では、残された衣装、道具、写真などから往年の姿を想像するほかありません。

ワンポイント解説

義太夫

 竹本義太夫が1684年、大阪で創始し、人形劇と結びついて発展した浄瑠璃。古浄瑠璃各派の芸風、謡曲等の音楽を学んだ義太夫は「当流」と称して、大阪に竹本座を創設、近松門左衛門とともに人形浄瑠璃を芸術の域に高めました。義太夫の演奏スタイルは通常、太夫1人、三味線奏者1人で行われ、三味線は太棹を用います。

地芝居

 通常、土地の素人自らによる芝居を「地芝居」と呼ぶことが多いのですが、このような土着のものの他に、地役者による芝居を買う「買芝居(請芝居)」を地芝居という場合もあります。厚木市域の場合は、両方を指し、場合によって同じ地芝居ということばを使い分けていたようです。

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