厚木市レッドデータブック完成記念講演会「生物の絶滅と新型コロナ~新たなる自然共生社会を目指して~」を開催しました

更新日:2021年12月08日

公開日:2021年12月08日

厚木市では生物多様性あつぎ戦略の取組の1つとして、市内の野生生物の現状を把握し、その保護と生物多様性の保全を図るため、平成26年度から市独自のレッドデータブック(注)の作成に取組んできました。

  令和3年3月に厚木市レッドデータブックとしての完成したことを記念し、令和3年10月27日にオンライン配信(YouTube Live)で国立環境研究所の五箇 公一 氏による基調講演及び学生パネリスト等とのクロストークを開催しました。

(注)レッドデータブックとは、生息又は生育する野生生物について、個々の種の絶滅危険度を評価し、絶滅のおそれがある種を選定して情報をまとめたものです。

事前質問と五箇先生からの回答

講演会を開催するにあたり、皆さまから「五箇先生に聞いてみたい生物多様性のこと」と題して五箇先生への質問を事前募集しました(現在は募集を終了しています)。
お寄せいただいた質問と五箇先生からの回答は次のとおりです(Q&A形式で掲載)。

Q1:ヒトが絶滅(または猿の惑星のように文明が滅んだら)したら生物の多様性はどうなりますか?

A1:人間活動によって絶滅に瀕していた生物たちは、生息地の回復とともに個体数を増やしてくと考えられます。一方で、人為的環境で栄えていたゴキブリやハエや蚊などの害虫類は個体数を減らすと考えられます。
その後は、地球環境の自然な推移に合わせて、生物たちが進化を繰り返して、生物多様性も変遷していくと考えられます。

Q2:蜘蛛は、どうしていつも下向きで巣の真ん中にいるのですか?

A2:網の上部で待ち構えていて、獲物がかかったら、重力を利用して素早く獲物の方へ移動できるようにするため、下向きで待機していると考えられます。

Q3:国内外来種は、その地域に従来生息していなかった生物が人為的に持ち込まれたものという定義ですが、植物については、鳥によるものなど、自然の中においても種の移動は、かなり広範に及ぶと思われます。植物における国内外来種という位置付けはあり得るのでしょうか?あるとすると、具体的にはどのような事例があるのでしょうか?

A3:植物の種が鳥や風などに運ばれて新天地に行く現象は「自然現象」であり、人為移送にあたらないため、外来種の定義には当てはまりません。人の登山靴の裏などに植物の種が付着して、高山域に移送されるケースは外来種・外来生物に該当し、近年、高山生態系の撹乱要因として問題となっています。
例えば、高山帯の代表的な植物の一つであるコマクサは、北海道と中部地方以北の限られた山域に生育しています。その一方で園芸品種を含む市販品が、山草として鉢植えやロックガーデンに利用されています。最近ではこれまでコマクサが生育していなかった山域で、外部から持ち込まれたコマクサが生育範囲を広げるようになってきました。これらのコマクサのDNAを解析した結果、白山国立公園のコマクサは、乗鞍岳および市販品、日光白根山のコマクサは、草津白根山、蔵王山、および市販品のコマクサが持ち込まれたものと推測されています。こうしたコマクサは、日本国内の在来種ではあるものの、本来の生育地ではない他の高山帯の原生的な自然を破壊する外来植物(国内由来の外来種)として、駆除の対象になっています。

Q4:国内外来種の問題点として、交雑による遺伝子の攪乱が挙げられますが、遺伝子の多様性に寄与するような気がしています。これについて、純粋な血統を守りたいといった人間の意識が働いているのでしょうか?

A4:国内外来生物における遺伝的攪乱の問題は、自然界では出会うはずがなかった各地域の個体が人為的に移送されてしまうことで生じる人為的撹乱とみなされ、進化の歴史に対する破壊行為と捉えられる点です。
当方の講演の中でもヒラタクワガタという種には地域ごとに何万年、何十万年、あるいは何百万年もかけて遺伝的に分化した地域集団(系統)が存在しており、そうした貴重な進化の歴史産物としての地域固有性が、人間がペットとして移送させることでいとも簡単に混じって壊れてしまうリスクがあることを示しました。
しかし、遺伝的に交わることができるのであれば、同種なんだし、交じって何が悪いのか。第一、外国産や国内の他の地域のヒラタクワガタの遺伝子が、一部の集団の中に交じっていくということは、遺伝子の多様性が増して、かえっていいのではないかという指摘もあると思います。
ここで肝心なのは、島ごとに分化したヒラタクワガタどうしは、まず自然界においては出会うチャンスはなく、クワガタの移動能力を超えた移送をするということは、これまでの生物進化の歴史ではあり得なかったことだという点です。そのような、人間の大胆な行為によって、ヒラタクワガタが、何百万年もの時間をかけて、一生懸命に自力でつくりあげてきた「進化的地域固有性」を、あっさりと壊してしまうのは、なんとなくもったいない気が私自身はするのです。
もちろん、研究者が「もったいない」なんて感傷だけで、生物多様性を語るのは間違っていますから、科学的にこのクワガタムシの移送と、交尾の問題点について、きちんと説明する必要があります。こうした雑種の分布拡大が、遺伝子の地域固有性を失わせてしまう、そこが、生物多様性の喪失という点からも問題だ、という点が、私たち生態学者の共通意見となっています。遺伝子の多様性が高いことが、生物多様性を支える上でも重要であることは、講演でも解説しました。
ただし、遺伝子の多様性というのは、全ての集団が、同じように高い遺伝的変異をもっていることを意味している訳ではありません。地域ごとに独自の進化を遂げた種が存在するように、同じ種でも、地域ごとに異なった遺伝子の組成をもつ集団が存在します。このような遺伝子組成の違いは、地域ごとに異なった環境のもとで、淘汰を受けて進化したり、海に浮かぶ島のように、周囲から隔離されることで、たまたまレアな遺伝子ばかりの集団になったりすることで形成されます。
このように、地域ごとに異なった遺伝子組成をもつ集団が、総体となってその種の遺伝的多様性を維持しているのです。例えば、あるクワガタムシ1種の本州の集団が、集団サイズも大きく、遺伝子の変異が豊富な集団だったとします。そして、南の離島に住む集団は、集団内の個体数が限られており、たった一つの遺伝子で固定されていたとします。遺伝的多様性の観点からは、本州の集団のほうが、多様性が高く、価値が高いように感じます。でも、もし、離島に住む集団が持っているたった一つの遺伝子が、本州には存在しない遺伝子だったとしたら、この離島の集団とその遺伝子は、その島にしか存在しない、固有性の高い、貴重な存在となります。そして、もし、この離島の集団を滅ぼしてしまったら、クワガタムシの遺伝子の多様性は貴重な一部を、失ってしまうことを意味します。「それでも、雑種ができて、その雑種に負けてしまうような集団なら、雑種に置き換わった方が、結果的には強くなって、いいんじゃないのか?それが自然淘汰というものじゃないのか?」という意見もやはり出て来ると思います。実はそうした意見も真理であると言えます。実際に北アメリカでは、ピューマといわれるネコ科大型動物の野生集団が、生息地の悪化で急速に矮小化していて、遺伝子の多様性も大変小さくなっており、このまま放っておくと絶滅する可能性が高いので、他の地域の亜種集団を移植して、雑種を作ることで遺伝的多様性を高めたらどうか、という議論があるくらいです。
遺伝子の多様性を維持するための移植の試みとして有名なものに、日本における中国産トキの輸入もあげられます。日本のトキが絶滅寸前となり、かろうじて生き残った個体を捕獲して、佐渡島に大規模な飼育センターをつくって飼育し、中国のトキとかけあわせて、日本固有の遺伝子を、せめて雑種というかたちで残そうとしたのです。しかし、残念ながら、日本の純血のトキは、1993年に最後に生き残っていたメス1羽が死亡して、事実上、絶滅しました。今、佐渡島で増殖されているのは、中国産のトキなのです。
このように、他の地域から同種の集団や、亜種の集団を持ち込んで、遺伝子の多様性が著しく低下した矮小集団を復活させるという行為は、絶滅から集団を救うと言う意味で、緊急避難的な最終手段として、議論の対象になるべきかも知れません。しかし、少なくとも日本のヒラタクワガタは、絶滅寸前という状況にはまだありませんし、問題とされる「雑種化」も、遺伝子の多様性を高めるという目的で生じさせるのではなく、単純に、逃がした外国産個体が日本産個体と交わってしまうという、人間の不注意による「事故」で生じることであり、ピューマやトキの「雑種化」の問題とは、前提や状況が大きく異なります。単純に事故で貴重な進化の歴史産物を失ってしまうのは、やはり、「もったいない」と、個人的には思うのですが、やはり、もったいないの一言では、ダメでしょうか?
何よりも、クワガタムシの雑種化の問題は、人間が気をつけることで避けることができる問題です。要するに「飼っている個体を逃がさなければいい」ということです。避けようがある問題なら、避けた方がいいのではないでしょうか?

講演会後のアンケートからお寄せいただいたご意見・ご感想

講演会後のアンケートで皆さまからお寄せいただいたご意見・ご感想について、ご紹介させていただきます。

・生物だけの話だけでなく、社会課題についても触れられていたので非常にわかりやすかったです
・クロストークでは質問に五箇先生が答えるQ&Aでしたが、厚木の地域に関連した質問や意見交換、テーマトークなどもあればもっと楽しめたとかと感じました。
・広い視野をもつ専門家の先生の講演を拝聴でき、良い機会でした。配信時間や方法も、一般市民にも参加ハードルが低く気軽に参加でき、有り難かったです。
・生物多様性について漠然と理解していたことが、この講演でよく理解することができました。カエルやトンボが年々減ってきていると感じています。
・農業従事者として、水田や畑にいる生物を大切にしていきたいと思います。本日はありがとうございました。
・クロストークに参加された学生さんたちも勉強熱心で次世代の希望となる力を感じた。全世代に責任がある問題なので、私にもできることを考えたい
・このような活動は継続していくことが重要だと思います。皆さんの関心事を吸い上げ、より具体的な内容をシェアできるようにしたいですね。
・我々人間も生物多様性の中で生きているということが理解できました。大変興味深い講演内容でした。ありがとうございました。
・たいへん面白かった。生物多様性と日常の暮らしのつながりが良くわかる解説でした。五箇先生の話は今後も聞きたいです。
・多様性がなぜ必要なのか、自分で考えていたより、いろんな側面があることがよくわかりました。里山とか地産地消を大事にしたいと思いました。ありがとうございました。
・生物多様性保全は、エコではなく、エゴという言葉、すごく胸に刺さりました。自分は自然のためと思っていても、巡り巡っては結局は自分、そして生活のためと感じました。
来年から、農業に携わることになりますが、今回のことをしっかり受け止めて、物事を行っていきたいと考えます。

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